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【 シロクマ冬眠記!】

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写真で綴る徒然日記

一杯の天玉そば

天玉そば。

立ち食いそば屋における、サラリーマンの代表的メニュー。
かき揚げ...であろう天ぷらがのった温かいそばに、
生玉子を落としたメニュー。

今までは、あえて玉子は不要で、天ぷらそばしか食べなかったが、
最近は、事あるごとに天玉そばを食べる。
それは、最近読んだ小説の影響だ。
鬱屈としたサラリーマンが、通勤途中で立ち寄る立ち食いそば屋で、
汁が見えなくなるほどに七味トウガラシを振った「天玉そば」を
胃に流し込む様子。その表現、描写が妙に印象的だった。

実際、大方の立ち食いそばなど、サラリーマンにとっては単に、
エネルギー摂取の場でしかない。少なくともそう見える。
下手をすれば、「食べたい」のではなく、「食べなければ」だったりする。
現に、その店でも、自分の後にカレーライスを注文した彼は、
こっちが天玉そばを流し込む前に、完食して出て行った。
果たして、これが、「食べる」という行為だろうか…?
と思うほどの素早さだった。

そんな店の天玉そばなど、美味いはずは無い。
いや、むしろ、それで良い。

「麺をつまみ上げ、口に運んだ。熱い。汁そのものが舌を火傷しそうなほどに
熱いわけではなく、熱いと感じるのは、舌の上にざらざらする七味トウガラシ
のせいだ。噛むと、歯と歯の間で七味がじゃりじゃり粉砕される。音が、あご
骨に伝わり、頭蓋骨へと響いた。咀嚼する。麺をひと口食べたところで、汁
が沁み、ほんの数秒でくずれはじめたかき揚げの一片を口に入れる。どろり
と溶けた、粉っぽい感触が舌の上に広がる」
鳴海章 「狼の血」より

明らかに不味そうな表現だと思う。が、ナゼか印象的に残った。
「食べ物と濡れ場は作家の力量を示すバロメーター」といわれるが、
正に、ここに自分は、ナゼか共感してしまった。

そして、今日の夕飯も、その後の微妙な飲みとのタイミングで、
軽くそばでも...と思い立ったのが、某駅前の立ち食いそば。
食券も何もなく、カウンターの向こう側のおばちゃんに声を掛ける。
「天玉そば」
そばを作る間も、三人居るそのおばちゃん達は、
「最近の若いのは返事もできないのねぇ~」
と、誰のことやら知らぬが、悪態をついている。
そして、出てきたその「天玉そば」に、ある種の可能性を見出した。
きっと、このそばは、不味い。が、もしかしたら...

セルフの水を取り、さっさとカウンターに陣取ると、
銀色の七味トウガラシの入れ物を振り続ける。
小説ほどに七味で丼を満たすまでは至らないが、
外気の暑さと、そばの熱さを考慮しつつ、探りながら振り続ける。
そして、ひと口。
すると、七味が辛くない。大量に入れた割には程よい辛さで、
むしろ山椒風味が強い。それをいいことに、更に七味を振る。
かき揚げを汁に浸す。それを箸で割って口に運ぶ。そばをすする。
半分を胃に流し込んだところで、白くふやけた玉子を割り、
ふた味目に突入する。全てを流し込み、汁をも飲み干したところで、
丼を置く。
ふぅ~
美味くはない...が...とっても納得。
あの小説のモチーフがこの店なのではないか?と錯覚するぐらい、
勝手に満足。

そして、その鬱屈とした小説とは正反対に、「ごちそうさまぁ~」と
愛想の良い挨拶をして店を後にする。

まぁ、己の舌などは全く信用ならんモンで、
むしろ、飯などは気分で食うもんだ、と再認識。

更には三百七十円で、大満足な夕食だったのでした。

一杯の天玉そば_b0054498_1592210.jpg
by whitekuma | 2008-07-16 02:07

by whitekuma